The First Step

2人の創業者が株式会社Oceanic Constellations
設立に込めた想い

共同代表の小畑実昭(左)と本田拓馬(右)

なぜ海なのか?

「何かやれることはないんだろうか、というのが率直な感想でした。」と共同代表の小畑は改めて実感していた。地震の影響による津波予測の話だ。近年日本では、緊急地震速報の高度化、人工衛星画像の精緻化などにより災害の予測や現状把握が早くなっている。日常生活の中に緊急地震速報やSMSでの避難通知、Jアラート等の一斉通知が来るようになった今、何か災害が起きた際に周囲の状況がいち早くわかる社会に一気に転換が進んでいる。

「その一方で、海の出来事は一般人にとってはほぼ未知のままです。海で何が起こっているか、監視カメラを直接リアルタイムで見るようなことは簡単にはできません。いつのまにかテレビで津波予測がでなくなったよね、という印象で過ぎ去ってしまいます」
デジタルデータのハンドリング事業を経営していた小畑は、海洋データの拡充による貢献が何かできないか、と日々考えるようになった。

本田は宇宙における人工衛星事業の立ち上げを総合商社で担当していた。「人工衛星は全世界を広範囲にわたり観測することができますが、時間的・空間的解像度の限界があります。地球表面で起きていることのすべてがリアルタイムに分かるわけではないんです」、というのが本田のスタンスであり、問題意識だった。

「地球を観測する軌道の人工衛星が撮影できるのは、撮影したいエリアの上空を通過する短時間のみです。一つの衛星だけでリアルタイムな出来事をカバーするのは到底無理で、多数の『群(=コンステレーション)』として展開して始めて、いつでもどれかの人工衛星の機体が指定する撮影場所を撮影できるようになります。一方、人工衛星コンステレーション形成のためには莫大な費用が必要ですし、地表遠くから観測することから解像度の限界があります。必ずしも衛星だけでカバーするのではなく、航空機や船など、見たい領域にあったプラットフォームで観測し、連携することが、日本の安心・安全に貢献する上で重要だと考えています」

やがて2人の疑問は一つの問いにつながっていく。

「なぜ海の上に、人工衛星群のように定常的に観察できる機械を
多数展開できないのだろうか?」

ここから、「Oceanic Constellations(海の衛星群)」の構想が始まった。2023年8月の話である。

怒涛のヒアリングと
基本構想の始まり

小畑「技術的にはどのくらい難しいんだっけ?」
本田「そもそもこんなことをして社会的に意義あるんですかね?」

それぞれがすぐに根本的な自問自答を始めるのに時間はかからなかった。そして互いの周囲の知人・友人大勢にヒアリングを始めることとなった。その結果は二人にとって意外だったと同時に、社会的インパクトを予感させるのに充分なものだった。ヒアリングの結果は、具体的には以下の3点に集約されていた。

1. 2023年当時の各種技術レベルを分野別に再確認すると、2019年頃からの進歩が問題意識にフィットするものが多く、技術的な実現可能性が過去数年で飛躍的に高まってきている。今であれば社会実装ができるのではないだろうか?

2. 海洋大国日本において、過去「物量」で問題に取り組もうとする動きはあまり存在せず、「高機能&一品もの」を志向するトレンドが非常に強かった。そのため、多数の機体による海上での群(=コンステレーション)の展開というのは、発想自体が検討されたことがなく斬新ではないか?

3. そんなの、できるの?無理じゃない?

社会的意義があり、技術的になんとか達成できる可能性が見える一方で、根拠なき印象として「無理じゃない?」というフィードバック。二人とも事業構想のギアを上げるには充分な理由だった。

本田「宇宙の民間事業プレーヤーの勃興は過去15年程度ですが、
ひょっとすると今の海洋の姿って宇宙事業者たちの10年前ぐらいの姿なんじゃないんですかね?」
小畑「社会的に意義があることって、大きな潮流としてすごく大事。
始まりを収益性だけで語れるビジネスだったらそもそも僕たちが人生を投じる意味がないよね。
思い切りアクセル踏んでみましょうか」

二人とも話は早かった。会社名は意義をそのまま体現し、「株式会社Oceanic Constellations」(略称「OC」)。
「海の衛星群」そのままである。そして、すぐに必要なチーム・リソースの見極めが始まる。

国内ベストと呼べる
チームメンバーの結集

会社としての形ができる前に徹底的に議論を重ねた結果、メインの技術分野は以下に集約されることとなった。

1. 「自律的群制御」。一つ一つの機体を遠隔操作するのでなく、多数の機体群を特定の行動目的に従ってコントロールできること。
2. 「非修理系」。長い期間にわたり海洋上で展開できる耐久性と、バッテリ充電率に応じた高度な自律電力制御。
3. 「通信ハンドオーバー」人工衛星~機体間通信~水中および地上の各種ネットワーク構築・制御技術

社会的意義とOCの技術的な面白さに共感してくれるメンバーが徐々に結集し、2024年1月現在、14名の社員が在籍。ロボティクス、宇宙、自動車、ITなど多様な産業においてプロダクトの社会実装を経験した一流のエンジニアによるメンバー構成となった。メンバーの出身校である東京大学研究室の支援を受け、パートナー企業との連携を確立し、開発体制を創り上げた。明確に言語化はせずに集ったメンバーだが、「一流の技術を、大義のある形で、社会実装したいよね」というのが共通の想いになったことは確かだ。

OCの目指すところ

「非常にシンプルに考えています」と小畑は語る。「会社名にそのまま出ていますので」というのが答えだ。本田は、「海の衛星群、それが実現され社会実装された後の姿を思い描くと、それはこれまで全く未経験なレベルでの『海の見える化』ができることになります。少子化、エネルギー安全保障、保安など、日本は様々な社会課題に直面していますが、海の衛星群はそれらの課題に対する答えになると考えています。僕たちの命題は非常に単純で、この見える化に答えられるだけの機体と群れを創り出せるかどうか、そこに掛かっています。なので、ものづくりも理論も踏まえた一流の技術者が集える会社にすることが最も大事と考えています」と語っている。

2024年1月現在、株式会社Oceanic Constellationsは、海に近接する鎌倉にオフィスを設立。シードラウンドとして経営陣・個人投資家から総額1億8千万円を調達し、事業を開始した。この後のストーリーは日々紡がれている真っ最中である。